先送り需要が顕在化

先送り需要が顕在化

さらに、個人消費を上振れさせる2つのシナリオが考えられる。第1に、先送りされた消費需要の顕在化である。1~3月期と4~6月期(見込み)のGDP統計では、雇用者報酬が一定水準を維持するなか、個人消費は大きぐ減少した。この消費の減少分には、本当は支出する予定だったが、やむを得ず支出を先送りしたものも含まれている。代表例は自動車である。新車販売台数は、4月に前年同月比47%減となったが、この主因は生産台数の急減という供給サイドの要因であった。また、FX、洋服、家電、宝飾なども、購入計画を立てていたのに、萎縮ムードに支配されて、購入を見送ったケースも多かったと考えられる。これらの需要は決して消滅したわけではなく、あくまで将来に先送りされたにすぎない。

 

この先送り需要が顕在化すれば消費の押し上げ要因として働き、一時的に消費支出が所得水準を上回ることもありうる。もちろん、先送りされた需要が消費支出として出てくるかどうかは、自動車などの操業体制がいっ完全復旧するかにも左右される。第2に、震災からの復興需要である。現在多くの人々が不便な生活を余儀なくされているが、地方自治体などの支援を受けつつ、徐々に生活基盤の復旧に向けた動きが広がっていく。

 

その過程で、決して積極的な消費支出ではないにしても、生活に不可欠な耐久消費財や日用品の需要が拡大すると予想される。これも、個人消費を押し上げる方向に働く。ただし、消費の復興需要は住宅の再建スピードに大きく依存する。仮設住宅にせよ、持ち家の新築にせよ、住居が決まらないと、生活必需品への支出は本格化しにくい。被害が甚大で、自治体主導の復興計画も策定に困難を伴うため、住宅の再建には時間がかかると予想される。そのため、消費の復興需要は、阪神大震災後に比べて緩やかにとどまるかもしれない。以上のように、不透明さも残っているが、今後の個人消費は、下振れリスクよりも上振れの可能性が高いと考えられる。